筋萎縮性側索硬化症(ALS)の検査・診断
検査
  1. 身体所見

    線維束性収縮があります。特に上腕と前胸部の筋肉が多いです。ただし、線維束性収縮が単独の症状として現れることはなく、必ず他の所見を伴います。反射の現れかたによって上位ニューロンの障害か下位ニューロンの障害かを見分けられます。初期は反射が亢進し、筋萎縮が進むと低下します。

    特にバビンスキー反射の出現は上位ニューロンの障害を強く示唆します。徒手筋力検査で筋力の低下、筋萎縮がみられない、もしくは廃用性萎縮がある場合は上位ニューロンの障害が示唆されます。早くから高度な筋萎縮がある場合は下位ニューロンの障害が示唆されます。

    陰性徴候がない。感覚障害・眼球運動障害・膀胱直腸障害・褥瘡の4つは筋萎縮側索硬化症(ALS)の4大陰性徴候と呼ばれ、病初期の診断基準として重要です。ただし、人工呼吸器による延命でさらに病態が進むと、眼球運動障害などが現れることもあります。

  2. 神経伝導検査

    伝導の速度と活動電位を調べます。運動線維のみで活動電位が低下し、伝導速度は運動線維・感覚線維ともに正常で、ただし頸椎症を合併して非典型的所見を示すことも多いです。

  3. 筋電図検査

    神経の障害が疑わしい部位で、電位の振幅が大きくなり、多相性電位が現れます。

  4. 血液検査

    HAMなら抗HTLV-I抗体が出ます。

  5. 画像診断

    脊髄MRIによって脊髄の疾患を除外します。

診断

次の①~⑤のすべてを満たすものを、筋萎縮側索硬化症(ALS)と診断します。

  1. 成人発症である。
  2. 経過は進行性である。
  3. 神経所見で、3つのうち2つ以上をみとめる。

    球症状:舌の麻痺・萎縮・線維束性収縮(筋のピクつき)、構音障害、嚥下障害
    上位ニューロン徴候:痙縮、腱反射亢進、病的反射
    下位ニューロン徴候:線維束性収縮、筋萎縮、筋力低下

  4. 筋電図所見を認める。
  5. 鑑別診断のいずれでもない。

筋萎縮側索硬化症(ALS)を診断するため、上位運動ニューロンの障害を示す錐体路徴候(深部腱反射の亢進やバビンスキー反射などの異常)と下位運動ニューロン障害により生じる筋萎縮、筋力低下、線維束性、れん縮などが認められることが必要です。さらに症状が進行することが確認されなければなりません。

他覚的な感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、小脳症状、認知症などが存在すれば、筋萎縮側索硬化症(ALS)とは診断できません。筋萎縮側索硬化症(ALS)の特定の検査はありませんが、針筋電図で下位ニューロン障害の有無を調べます。

筋萎縮側索硬化症(ALS)診断に確実な生物学的指標はなく、神経学的所見・臨床経過・除外診断が決めてとなります。筋萎縮側索硬化症(ALS)発症初期での診断が困難なこともあり、筋萎縮側索硬化症(ALS)の確実な診断には経過観察が必要で1~2年ほどかかることもあります。

鑑別診断

筋萎縮側索硬化症(ALS)は次のような治療可能な疾患を除外することが特に必要です。変形性頸椎症、頸椎後縦靭帯骨化症、腰部脊柱管狭窄症などの脊柱疾患は、レントゲン撮影やMRIにより除外可能です。多発ニューロパチーや多発性筋炎も鑑別の対象になりますが、いずれも特有の徴候から除外は容易です。

また脳幹や脊髄の腫瘍も問題となることがありますが、MRIにより診断できます。筋萎縮側索硬化症(ALS)の鑑別は特に重要な病気は、球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung病)、若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)、伝導ブロックを伴う多相性運動ニューロパチーなど。